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74:ファッション

良さんのファッションは、そこらじゃ真似できない。
赤、黄、青のシャツにズボン。それは、原色に彩られてまぶしいくらいだ。
周りから、「先鋭アート」「派手男」などと評されても一向に気にしていない。

「シマムラ」が大好きで、電動車イスに乗って買い物に行くと「洋服を選ぶということは、自分の生き方を選ぶことなんだ」とか言って、がぜん張り切っている。
だけど、良さんに合う服は、なかなか見つからない。
「誰を基準に標準サイズがあるんじゃ」などと試着しながら愚痴っている。
しかも、原色という条件付きだから、見つけても子ども服売り場だったりして、店内を車イスで右往左往。
あきらめて何も買えずに店を出ることもしばしば。

そんな良さん。最初に出会った時は、地味なオッサンだった。数年前に障害者施設から出て自立生活を始めたと聞いていた。
その頃の服は、くすんだ色のスウェットばかり。
どの服の裏にもマジックで「良」と大きく名前が書かれてあった。

良さんのファッションに変化が現れたのは、生活が安定してきた頃だろうか。
かの昔、服の色は、社会階層を示していたという。
紫、赤、青、黄。鮮やかな色の染料ほど貴重だったため、高貴な人間だけの服の色となっていた。
どうやら、この名残か。今も街行く人々の服は茶色か灰色。くすんで見える。

そんなこと知ってか知らぬか「障害者は目立たなアカン」と、良さんの本日の服は上から下まで緑色。
「良さん、それじゃあ、まるでアマガエルだよ」