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70:コーヤン

「コーヤンありがとう」
棺の中で眠った顔を見て、これしか言えなかったよ。

コーヤンこと荒川孝一さん。僕たちに、たくさんの思い出を残して逝去した。
それは、楽しい思い出だけじゃなくて、リフト付きのワゴン車を導入したり、障害者の自立生活を支援するセンターを立ち上げたり、ふうせんバレーの全国大会を関催したり…。
今、僕らの街で当然のように移ろいでいる物も風景も、その始まりの中心には、コーヤンがいた。

「求心力」って言葉が、当てはまるならコーヤンだ。
いつも周りにたくさんの人たちが集まっていたね。
最初の対面はこうだった。
山沿いの家、二階の玄関に、押入れを改造したエレベーターがあって、そこからコーヤンが昇ってきた。
「サンダーバードみたい」
「かっこいいやろ」
出会った時から笑ったよ。

それから、僕らはつるむ様にいろんな所に行ったね。
「こんな体験は始めて」とコーヤンが言ってくれるのが嬉しくて、大人の遊びと称しては、夜のネオン街にも車イスで繰り出て行った。
寒がりのマーヤンは夏でも熱燗。カラオケは「あの素靖らしい愛をもう一度」
コーヤンが作曲した歌もたくさん。曲調はとても優しくて、これって人柄かな。

驚いたのは、小さな機械で音符を一つずつ打ち込こんで楽曲を作っていたこと。
筋ジストロフィーという病気をかかえて苦しいのに、いつも僕らを気遣い、その素振りも見せなかったね。
なあ。コーヤン。生まれ返っておいでよ。頭脳明晰のコーヤンなら、難病を治す薬も作れるはずだ。