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68:おかあさん

母が亡くなった。
母は肝臓ガンを患っていて、何度も危篤な状態から生き返って来てくれていた。
覚悟をしていたというものの足が震えた。
だって、数時間前、「まだ三途の川は渡られん」と言っていたし、「気をつけて行っておいで」と僕を仕事に見送ってくれた。

危ないと姉からの連絡を受け、急ぎ駆けつけた時も、「よいしょ、よいしょ・・・」と意識のない中、今度も戻って来ようとしていた母。
期待と希望を抱いた。
でも、急に、目を見開き、歯を食いしばり、もがき始めると、そのうち、呼吸が小さくなってきて・・・。
「頑張ったね。もういいよ」
僕は、静かに母の瞼を手で閉じた。家族が見守る中、母は、天に召された。

「おなかは、すいてないね」が、母の口癖だった。
「私の背中を見ていたら、道は曲がらん」不良な反抗期。この言葉には、参った。
家族のために一生懸命に尽くしてくれていた母。
どの風景も思い出がいっぱい過ぎて、整理がつかないアルバムみたいだ。
母の亡骸を実家に連れて帰って、一緒に泊まった。

朝、母が起きてこなくて、何度も冷たくなった母に頬ずりしては「起きて、起きて」と泣き叫んだ。
つらい、悲しい、切ない、むなしい、どんな形容詞を使っても表現できない。
母が喜んでくれることを生きがいにしていただけに、抜け殻になってしまった。
でも、そんな僕を、慰め励まそうと、たくさんのボランティアの仲間たちが、弔問に来てくれた。
「だから、おかあさん。俺は大丈夫だ」