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1:はじまり

 「わたぼうしコンサート」。どんなものかも知らず、彼女に誘われるまま付いて行った。
小倉市民会館の一番後ろの席、足を投げ出し座った。
禁煙の表示を見て舌を打ち、彼女にガムを催促した。

「ねぇ、志望校提出した?」
ガムの包みを取りながら彼女は言った。
「行きたい大学なんてないと書いたら、呼び出しくらった」
「あたり前じゃん」
「ないものはないんや」
 ここまで来て受験の話かと少し腹が立った。

受験のプレッシャーにあおられ勉強している者が、愚かに見えた。
でも、周囲にとやかく言われると面倒だから、学校には、ただ顔を出していた。
高校三年の秋。何もかもが、おもしろくなかった。

 開始のブザーが鳴り、会場が暗くなった。幕が上がり、音楽が聞こえてきた。
 スポットライトの中に車イスに座った男性がいた。
それは、初めて障害者を見る衝撃的な場面だった。
 彼が、今、流れている曲の作詞を手がけたという。

 この後からも、杖の女性や目の見えない男性が、作詞した曲が演奏された。
 音楽に鼓動を感じると、「何?」「何?」が頭を殴りつけ通り過ぎて行った。「どうしてだろう。」とても痛くて、たまらず涙がこみあげてきた。

現実に言い訳つけて、座り込んでいた自分に声が届いた。
「始めないと始まらないよ。」

 涙があふれ止らない。こんなに涙は熱いものなのか。 
 フィナーレでは、隣に彼女がいることなんか忘れ、恥ずかしくもなく、ステージに上がり一緒に歌っていた。
 将来、福祉の道に進もうと決めた時、口の中しょっぱいガムの味がした。