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» 48:障害の権利とは~帽子の思い出~

48:障害の権利とは~帽子の思い出~

良さんは、もう何年も同じ帽子をかぶっている。
「その帽子はいい加減にくたびれちゃってますね」
「俺とおんなじさ」
と冗談でかわしながら、とつとつと古びた帽子の思い出を語り始めた。

「この帽子は、障害者施設にいた時、初めて自分で買った物なんだ。この帽子が絶対に欲しいって思ってね。そこで職員に相談したら、少し待ってと言われ、でも、待てども手に入らないから、しつこく何度も訴えたら、わがまま言わないでと・・・」
「そんなに欲しかった?」
「今、思えば帽子が欲しいというよりも、今まで、与えられた物で満足していた。でも、それでは自分らしさがない。と気づいたんだ」

「それでどうしたの」
「初めて自分で買いに行ったよ。あまりにも嬉しくて施設の中でもかぶっていたら、今度は、部屋の中では帽子を取りなさいと」
「このことが施設を出たいと思ったきっかけなんだ」
「いや、まだそんなこと考えられなかったけど、自立生活を始めてわかったんだ。これが、俺がした初の権利の主張だったのかなって」
「権利の主張?」
「そう、障害者は、義務を果たしてもいないのに権利を主張するとは何事か。弱者は、それらしく生きろって知らずに身についていて主張なんてできなかった」

一方、僕らが学んできたことというと、「弱者に対してのいたわりや思いやりを」と吹き込まれてきた。
だから、逆に主張されると引いてしまうことがある。
「権利をわがままと訳していては、何も変わりやしない。本来、権利(rights)は、正しいと訳されるんだ」