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46:罪と罰

良さんの部屋で裁判員制度のことを話していると、良さんが、車イスからズルズルと下りてきた。
これは、いつもの熱弁が始まる前兆と、僕は床に置いていたビールとつまみを端によけた。

「この前、母親が自分の子を殺した事件があったろう」
「福岡の事件ですね」
「母親は病弱で、その子には障害があったそうだ」
 思いもよらず、良さんは淡々と話しを続けた。

「昔からそう、障害児を殺した親には、減刑にする嘆願運動が起こるんだ。この悲劇は、遅れた福祉行政に原因があるとしてね」
「わかりますね。重介護に加え、将来を悲観してしまうのが、今の社会ですから」
 僕がそう答えると、良さんの態度が急変した。

「じゃあ、聞くけど、殺された子どものことは何もかえりみないのか。それは、俺たち障害者は、殺されてもやむを得ないという存在にならないか」

僕は混乱した。普通に抱いていた社会通念から、母親に同情していた。
しかし、同情されるべきは、殺された障害児の方のはず、偽善は差別を生んでいたのか…。

「殺人の量刑は、懲役十年と言われる。でも、肉親が障害者を殺めると、たったの三年から五年。執行猶予がつくこともあって、交通事故より罪が軽いんだ」
興奮をおさめようとしたのか良さんは、ビール缶に刺したストローで一口飲んで聞いてきた。

「法の下では、誰もが平等のはずだろう。もし、この公判で裁判員に選ばれたとしたら、君はどう裁く?」