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99:二つの「やめた」

マザーテレサと握手した。

優しくキュッと握られると、柔 らかくて冷やりとした。

「この手で何人もの命を救った のだ」と思うと、彼女の手の感触 は、今も忘れられない。

その後、いくつか話しかけられて 「日本での仕事は何」と尋ねられた。

とっさに「ソーシャルワーク」と答える と、彼女からじっと見つめられて

「貧 しい人を愛しなさい」と告げられた。

以来、この言葉は僕にとって最 高の支えになっている。

この出来事から三十年余。

今 もソーシャルワークに関わる仕事 や活動を続けていて、

くじけそう になると「貧しい人を愛しなさ い」と口ずさんできた。

同時にこの 言葉の意味を探ることが課題に もなっており僕を悩ませている。

「貧しい人」とは、誰のことを指す のだろう。

生活困窮者。それだけじゃな く、生きづらさを抱える人すべ て。

しかも、人間誰もが何かのきっ かけで「貧しさ」を背負ってしま
う。

これを個人の責任にしていた ら、ソーシャルワークは存在しない。

次に「愛する」とは、どういうこ となのだろう。

マザーテレサは言っている。

「愛したいと願うなら、許す事 を知らなければなりません」

この許す事を知るために、僕な りに心がけていることがある。

それは、二つの「やめた」。

一つ目は、怒るのをやめた。

自分の感情を整えていれば、相 手の個性が見えてくる。

相手の気持ちが読み取れる。

二つ目は、嫌うのをやめた。

自分の器量を大きく持てば、 相手を裁かず話が聴ける。

相手 の決心を信じて待てる。相手との 秘密ができる。

二つの「やめた」は、ソーシャルワ ーク七つの原則に通じているよう で、僕はずっとこの難題に立ち向 かっている感じだ。

「貧しい人を愛しなさい」

まずは何をすべきかマザーテレ サは教えてくれている。

「笑顔は愛の始まりです」

※宮﨑さんは昭和六十一年二月、当会の 職員時代にマザーテレサの施設「死を 待つ人の家」で二週間研修しました。