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97:障害者差別解消法

「コンタクトレンズがない!」

ホテルの洗面所で声を上げた。

東京出張。旧友と食事をし、酔っ ぱらってホテルに帰ったのは憶えて いるけど、どこでレンズを外したの かは記憶にない。探す暇もなく、 連泊するホテルなので、そのまま 部屋を出た。

裸眼視力は、0.04。目を凝 らすと、人の姿はぼんやり見えて も、みんなの顔は、のっぺらぼう。ま ずは、駅まで行きたい。

そこで若いお姉さん風の人に 尋ねたら「あっち」と言われ、「あ っち」に行くと駅に着いた。

今度は、券売機がわからない。

そこでサラリーマン風の人に尋ね たら「あっち」と言われ「あっち」 に行くと券売機があった。隣の駅 だから最低料金だろうと、一番安 い切符を買った。

今度は、改札口がわからない。 そこで女子大生風の人に尋ねた ら「あっち」と言われ、「あっち」に 行くと改札口があった。

改札を出て、案内板を凝視し ながら、行き先ホームに上がる と、上下線から電車が到着した。

今度は、どの電車かわからな い。そこでオジサン風の人に尋ね たら「あっち」と言われ・・・。

「障害者差別解消法」が施行 された。この法律では、障害者に 対して「不当な差別的取扱い」 を禁止し、「合理的配慮の提 供」を求めていて、障害のある人 もない人も共に暮らせる社会 を目指すという立派な法律だ。

でも、この「合理的配慮の提 供」というのが、どうも解せな い。障害者からの要望に負担が 重すぎない範囲で配慮するよ う努めることを求めるという が、何のことやら。こうだから、 「合理的」という言葉の裏には 「適当」という意味を感じる。 あの時、ただ一言「あっち」と合 理的にあしらわれたように。

障害者と事業者。互いの意向 に合わせるならば、いっそ「合意的 配慮」とした方が、この法律の本 旨が伝わってくる。

ちなみに、コンタクトレンズは、 湯呑の中にあったのをホテルの人 が見つけてくれた。