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81:義母の最期

「ばあちゃんが、息してない」
朝、義姉からの電話の声に車を飛ばして駆けつけた。
到着すると、座敷の布団に横たわった義母。その隣に愛犬が寄り添っていた。

つい先ほど、医師から臨終を告げられたと聞いた。
義母は、今でも体を起こしてくれそうなくらい静かに眠っていた。
だけど、声をかけても目を覚まさない。

この現実を実感すると、急に涙があふれてきた。

義母は、腰が痛いと病院にかかったが、それは、すでにガンが骨にまで転移している容態にあった。
後日、入院するようになったが、義母には末期ガンであることを告げなかった。

でも、義母は、自分の余命を知っていたのだと思う。
「延命治療はしません。医師や家族には迷惑かけたくありません」と、日記に赤いペンで書かれてあった。
そして、激痛をこらえながらも、食事が入らなくなっても、周りには衰弱した姿を見せようとしなかった。

老人ホームで働く僕は、人の死に立ち会うことが必然にある。
病院のベッドの上、酸素、点滴などの管を着け、亡くなっていく姿は、痛ましい。

葬儀の際、誰もが言った。
「ばあちゃんは、自分の家の布団の上で死んで本望だったろう」
そうかもしれない。でも、これは、そんなに甘いものじゃない。

痛み、苦しみ、悲しみ、恐怖に、耐えてきた義母。

そんな義母の気丈さは、誰にも迷惑をかけまいと気遣う優しさからだと知った。
生前に撮った遺影、授かった法名。これらを祀った祭壇に手を合わせた。
「ばあちゃんに敬服」