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66:戦争が始まったら

ユウジとタカとそして僕。
良さんの介護ボランティアをしている。

僕たちは、時々、ミーティングと銘打って良さんの部屋で飲み明かしていた。
焼酎と缶詰とソーセージ。
一番のつまみは、世間話で、夜明けまで語り合った。

その話題の展開は、たいていユウジから始まる。
「なぁ、戦争が始まったらどうする?」
「山の中に逃げて隠れる。自分は死にたくないし、他人を殺したくない」と僕が答えると、タカが怪訝に、「俺は、戦うね。戦わないと殺されるんだぜ。自分を守るためなら相手と闘う」
スリムな僕とマッチョなタカ。体型も思考も違うのだろうか。
でも、ここで議論する気はなく、ユウジに話を振った。

「俺は、仲間を集め武装蜂起する。クーデターを起こし、この国をのっとるんだ。そうでもしないと、この国は変わらないだろ」
「チョー過激。絶対、俺たちを誘うなよ」
僕たち三人は、笑い合って、この話題は、これで終わりにしようと思った。
重度障害者の良さんには、酷な話だと感じたからだ。
場に迷いの沈黙が流れると、良さんから語り始めた。

「なぁ天安門事件で戦車を止めた男って憶えてるか?
俺も、あの男のように戦車の前に車イスで立ち塞がって、戦争反対を訴えてやる。
俺たち障害者っていうのは、非暴力の象徴と思わないか。
メディアと世論の力を借りれば、俺だって十分戦えるはず」

「スゲェ〜、カッコェ〜」
僕たち三人、声がそろった。タカなんか、力の限りに良さんを抱きしめた。
「イテテテ、だから、暴力反対だっちゅうの」