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58:いろんな心      

「心もケガすりゃ、風邪もひく、だから、病院がある」
随分前のことだけど、学生時代、僕は精神病院でアルバイトをしていた。

これは、その頃、看護主任だった、三宅さんの言葉。
三宅さんからは、教科書以上の事を教わった。
僕は、バイトとは言え、いっぱしの作業療法士気取りだった。だけど、仕事を始めた頃は、とんでもない。
鍵の掛かった重い鉄の扉。鉄格子のある窓。アルコール消毒の臭い。全てが生まれて初めての精神病院に緊張しっぱなしだった。

おぼろげな眼差し、にらみのきいた眼差し、入院している彼らとどう接すればいいのか。迷いに迷った。
仕事は、病棟内作業で行なう紙箱づくりを手伝った。
誰一人として会話の無い作業に迷いが増していた。
それでも、本来、午前中だけの、バイトだったけれど、授業そっちのけで、午後からの活動にも参加していた。

卓球、野球、休操、将棋、遠足、運動会、文化祭…。
みんなと笑う中で迷いが解けていく喜びを感じていたのかもしれない。

更に、三宅さんの語録は、「心は乱れるもの。乱れなきゃ心じゃないよ」
「いろんな心があっていい。それが人間なんだ」
これらは、哲学みたいで、僕の頭に「??」が並んだ。

今なお、結論めいた事は、言えないけれど、これまで、いろんな心と触れてきた。
例えば、こんな心やこんな心、こんな心にこんな心。
仮想を進めれば、明朝体で整然と並んでいるこの紙面は、現代社会だろうか。
そして、どこまでが、許される心なんだろう?
僕は心かな。あなたは?