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» 56: 修行の旅3

56: 修行の旅3

朝のお勤めが終わって、弘法大師空海が眠るといわれる奥の院へ向かった、
ここは、まるで黄泉(よみ)の国。
およそ2キロに及ぶ参道には、戦国大名の五輪塔や戦没慰霊碑、風変わりな企業の墓碑などが立ち並ぶ。
霧がかかり、石畳の道は湿っている。苔むした墓標たちはそびえる杉からの漏れ日に照らされてまぶしい。
日本の美に感動しながらも、気付くと早朝で誰一人としていない。霊感にうとい僕でも怖くなってきた。

「何か歌おう」と出てきた曲は、森のくまさん!
「ある日森の中〜♪」と、一人で輪唱しながら、元気に歩を進めていくと元気が出てきて、まもなく御廟所(ごびょうしょ)に着いた。
そこは、先程までの静けさが嘘のよう、多くの参拝者と僧侶たちとの読経が響き渡っていた。
物見遊山の観光客も、さすがに神妙な顔つきだ。
僕もにわか信者になりすました。

「南無大師遍照金剛」
静かに手を合わせ、弘法大師に問うていった。
「この閉塞感。私はこの先どうすればいいのですか」
しばらく目を閉じた。
そして、周囲の音が消えた時、宿坊で手にした本の一文が脳裏をかすめた。
「もしも、あなたの部屋の中に毒蛇がいたら、あなたは、どうかしてでも毒蛇を追い出すでしょう。毒蛇はあなたの苦悩。部屋とはあなたの心です。」

ややこしいけど、僕の中に心があるのじゃなくて、心の中に、僕がいる。
思えば今まで、自分の心の不甲斐なさにかまけて、何もやってこなかった。
悩みを解こうと出た旅も、結局、最後は自分次第。