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» 54:修行の旅1

54:修行の旅1

 物は申せども何もしない。そんな安っぽい評論家のような自分に嫌気がさして「これは、修行に行かねば!」と決めた。 
修行の地に選んだのは、霊峰高野山。弘法大師が広めた真言密教の聖地だ。

 電車、ケーブルカー、バスを乗り継いで、山深い秘境の地へ。と、思いきや、そこは世界遺産の地だった。 観光バスが並んでいて、老若男女の日本人、外国人が、土産屋に群れていた。
 いちゃつく男女を尻目に「喝」を入れ、宿坊となる寺の門をくぐった。

 奥から作務衣を着た若い僧が出てきた。お坊さんからの接待なんて妙な気分だ。
 部屋に通されると、まもなくして瞑想「阿字観」に案内された。
 「宇宙の源である梵字の『○=ア』を唱えます。  ※○の部分に梵字を入れて下さい。 長く吐く息、吸う息に、『アー』の音を観て下さい。
 座禅は無ですが阿字観は宇宙と一体感を得ることで何かが見えて参ります」

 「よしっ、最初の修行だ」と半跏蜘座を組み、半眼で、心を鎮めた。が、そんな気合に反し、急に股間がむず痒くなってきた。
 「ガーと掻きたい」しかし、両手は、へその前で印相を結んでいる。  痒みの絶頂、「アー」と声が震えた。
 そうこう、しばらく悶えていたけれど、知らないうち痒みがとれていった。
 気が付けば、ゆるやかな時間が流れていた。

 「そうだ!宇宙って時間のことなんだ。」
 とかく僕らは急がしくって忙しい。だから、急げぬ人を急かしたり、罵ったり、憐れんだりしている。

 「あっ見えてきた」心が亡くなると書いて「忙しい」。