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44:子どもの世界

 「ユゲ、ボール、取って・・・」
 数人の男の子たちが、ふざけ合いながら言ってきた。

 「もう、またか。」そう言ってユゲが部屋を出た。
 途端、ユゲに「抱っこ」としがみつく女の子。「カンチョー」とお尻に指差す男の子。
 ボールは、雨どいに掛かっていた。ユゲはジャンプしてそれを落とし、部屋に戻ろうとした。すると、
「また、引っかかったぁ」
 子どもたちの歓声に、ユゲはわざと転ぶ振りをした。
 子どもたちも真似して地面に転んだ。みんな笑顔に満ちていた。

 ユゲはある児童館でボランティアをしている。「ユゲ」と呼ばれる所以は、頭髪が温泉マークの湯気に似ていることかららしい。名づけ親はもちろん子どもたち。
 「最初はショックでしたね。子どもから完全になめられてしまったって」
 少し薄い頭髪をなでながらユゲは微笑んだ。

 しかし、今となっては、本名と思えるほどに「ユゲ」という名が浸透している。
 「この名で呼ばれることで気付いたんです。大人は、子どもから馬鹿にされまいと懸命になっている。しかし、子どもはそんな大人の虚勢をとっくに見抜いているんじゃないかと。それで無駄に威張ることをやめたら、子ども達は心を開いてくれたんです。『ユゲなら子どもの世界に入れてやる。』って」
 「時々『ハゲ』と聞こえることもあるんですけどね」とユゲは気さくに笑った。

 ユゲは、子どもの権利を守るオンブズパーソンを目指していると言う。
 「しょぼい大人たちからは、なめられたくないんです」